dawn,light

「光といふことを」人めには/みえぬものから/かがやくは/こころの底の/光なりけり

また春が来れば

出会えると信じて疑わなかったあの風景。
もう、出会うことが出来ないのだと知ってしまった朝は、心がザワザワする。

春一番が吹いた次の日の夜。
その日の帰り道は珍しく電車で寝過ごした。
最寄り駅に着いて家に帰る前に買いたいものがあり近所の薬局で買い物をした。
その薬局では7年ぶりぐらいの再会を友人と果たす。
私の住む街ではあまりないことだけど、ふんわりと白い雪が舞っていた。

そんな珍しいことばかりが起きた日が明けて次の日。

薄っすらと白い世界になった街を見て出勤する途中の車窓の景色が変わっていることに愕然とする。

毎年、春が来ると楽しみしている車窓の風景があった。
それは駅のホームへ寄り添うように、ホームに手を差し伸べるかのように、桜の木がいた風景だ。

そうだ、春だけじゃなかった。
その場所が見えるところにいるときは、あの桜の姿を見て次の春に桜が咲く景色を楽しみにしたり、それ以外の咲いていない時でもホームに向かって手を差し伸べるようにいてくれる桜を見ては心が緩んでいたのだった。

もうずっとあの景色を見て過ごしていたから、また春が来れば、あの桜が咲く様が見ることが出来ると信じて疑わなかった。
それが、いま、あの桜がいる景色は心の中にしかないのだと知った。
去年の春は、もう、この桜が咲く景色を見ることが出来ないのだとは分からなかった。

こんなとき、いつも私が有り余ると感じていることや、いつでも戻れると思って本当に大切にしているものを、私は大切にすることが出来ているのだろうか、と思い言われようのない感情が心を揺さぶる。

もしかすると見えない世界の誰かが、大切なものことは何か、私が本当に大切なものことを大切にすることが出来ているのかを問うてくれているのかもしれない。
あの桜の風景を突然なくしてしまった悲しみを通して。